がぎえるの脱皮殻

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ハマベハサミムシ飼育のススメ

 
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・はじめに
ここではハマベハサミムシ(Anisolabis maritima)の飼育方法について解説する。同科に属するヒゲジロハサミムシ等についても参考になる点はあると思われるが、オオハサミムシやクギヌキハサミムシといった別科のハサミムシについてはあまり参考にはならないだろう。
さて、ハマベハサミムシはハサミムシの仲間の中でも極めて飼育が容易な種である。餌を選り好みすることも無く、絶食にも比較的強いため、数日間世話をせずとも基本的に弱ることはない。しかも、プラスチック面を登れず翅もないので脱走の心配も無い。
そして何より、かっこいい。とてもかっこいい。黒く艶のあるカラダ、美しい曲線を描くハサミ、がっしりとした体型は、幼少期から私の心を掴んで、いや、挟んでやまない。
本論では、そんな素晴らしい昆虫を飼育を通じて皆様により親しんで頂くため、筆者が10年近く連続で飼育しているハマベハサミムシの飼育方法について解説する。
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・ハマベハサミムシについて
ハマベハサミムシは、ハサミムシの仲間の中でも最も普通に見られる種である。世界的にも広く生息し、人類の進出に伴って世界中に分布を広げたとも言われている。
その名が示す通り、浜辺に打ち上げられた流木や海藻の下に棲む事が広く知られているが、実は平地の住宅街や公園、空き地の石やコンクリートブロックをめくってみても大抵はその姿を見ることができる。
しかも春先から秋の終わりまで冬を除けばほぼ一年中見ることができるため、採集は極めて楽な昆虫である。
少々すばしこく走るため、どうしようもない隙間や割れ目に逃げられてしまう事もしばしばだが、翅もないため飛んで逃げられるような事はなく、素手で捕える事は容易。
抵抗を試みて挟んでくる事もあるが、大型の雄でもなければ指の皮を貫かれることも無い(筆者は小学生時代に35mmオーバーの大型雄に挟まれ、親指の薄皮に穴を空けられた)。
掴む際はハサミを持つと良い。ハマベハサミムシの体はハサミムシの中でも頑丈な部類であるため、それでハサミがもげてしまう事は(基本的には)無いだろう。なお、エゾハサミムシを初めとした華奢で繊細なハサミムシの捕獲においては、その持ち方はハサミを欠損する可能性が極めて高いため注意。
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ハサミムシのハサミは獲物を狩る武器でもあり、ハマベハサミムシは小型の昆虫やワラジムシなどをハサミで捕える様子がよく観察される。
雄と雌とではハサミの形状が著しく異なるため、雌雄の判別は一目瞭然。まっすぐなハサミが雌、湾曲したハサミが雄である。また、腹部は雄が10節から成るのに対し、雌は8節である。
交尾は雄が腹部を捻り、お互いの腹部先端をくっつけ合う形で行われる。
他の多くのハサミムシと同様、ハマベハサミムシも母親が仔を保護する習性がある。
交尾を終えた雌は石の下などに巣穴を掘り、楕円形の部屋を作って産卵する。産卵数は大体30mmの雌で約50〜70個程度で、孵化するまで表面を舐めて掃除したり位置を変えたりして清潔に保ち、世話をする。孵化までは約12日くらいで、その後も2日3日は母親が幼虫を保護するが、その後は幼虫たちは独り立ちし、母親も元の生活に戻る。
ハマベハサミムシは夜行性であり、昼間は石の下や巣穴に潜み、夜になると獲物や交尾相手を求めて歩き回る。
巣穴はアリの巣のように複雑に掘ることもあるため、飼育ではその様子を観察するのも楽しい。

・飼育に必要なもの
飼育ケースは一般的にホームセンター等で売られているものより、カブトムシの幼虫を育てるカップ型のプラケースややや高さのあるタッパーが良い。
別にそれで飼えない訳では無いが、空気穴がバカスカ空いた飼育ケースだと乾燥しやすく、適度な湿り気を好むハマベハサミムシには好ましくないためである。
また高温・乾燥には弱いため、絶対に窓際など直射日光が当たる場所に飼育容器を置いてはいけない。
ハマベハサミムシは共喰いするため、横20cm×奥行10cm程度の容器に30mmオーバーの大型個体なら2〜3頭、20mm程度の小型個体なら4〜5頭が限度だろう。体格差がなるべく小さい個体同士なら共喰いされる事は少ない。逆に言えば、体格差の大きな個体同士を入れれば大抵小さい方が喰われる。
土は基本的に必ず敷く。前述の通りハマベハサミムシは巣穴を掘る習性があり、また湿度の保持のためにも必要なためである。
土はカブトムシやクワガタに用いる木くず状の昆虫マットではなく、ハサミムシが穴を掘るのが容易な細かい土が好ましい。
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個人的にオススメなのは川砂やサンゴ砂(であり、湿り気を持たせると崩れにくく、また土と比べてハサミムシが穴を掘った際に壁面に付着しにくいため巣穴の様子が観察しやすい。
厚さは5cm以上にすれば深い穴を掘る様子が観察でき、また湿度保持の観点からも良い。
湿り気は敷いた土、砂を軽く握っても崩れず形が残るくらいで、ベチャベチャにするのは良くない。ハサミムシは体が濡れることを嫌う。
ハサミムシが日中安心して姿を隠しておけるシェルターには、朽木や流木の破片や小石、樹皮や落ち葉などが良いだろう。
複数頭で飼育する場合、こうしたシェルターがあることで共喰いを発生させにくくする事ができる。単独飼育においても、安心できる隠れ家はストレスなくハサミムシが過ごすのには必須である。
ハサミムシは水をよく飲むため、水入れも必要である。身近なものだとフィルムケースやペットボトルの蓋を洗って用いるのが手っ取り早い。ハマベハサミムシは比較的泳ぐのが得意な種であるため、這い上がれないような深さの水入れでなければ、溺れて死ぬような事は殆ど無い。ペットボトルのキャップ程度なら何の問題もないだろう。
水入れはそのまま置いても高すぎてハサミムシが口をつけられないため、足がかりになる木の破片や小石を隣に配置するか、或いは半分くらいの高さまで土に埋める。
ハマベハサミムシは物の下に潜り込む性質があるため、そのまま置くだけだとずらされたりひっくり返される恐れがあり、半分土に埋めるのは(何もしないよりは)有効だろう。
水は無論、1日置いてカルキ抜きをしたもの、もしくは浄水器を通したものを用いる。

・餌
ハマベハサミムシは肉食性の強い雑食である。
主食には死んだ、もしくは弱ったワラジムシやダンゴムシ、甲虫、カメムシの仲間以外の昆虫(要はあまり硬くない虫)を与えると良く食べる。水でふやかした煮干しや食パン、ザリガニや熱帯魚用の配合飼料も使えるが、あくまで代用食程度に考えた方が良いだろう。レッドローチやワラジムシ、コオロギなどを弱らせて与えれば、ハサミで狩りをする様子が観察しやすい。なお、死んでいる獲物であっても相手が大きいと判断すればハサミで締めつけることがある。
落ち葉や野菜類といった植物質は勿論、金魚フード等も食いつきは悪いため、使えない。昆虫ゼリーも少し舐める程度である。

・管理
数日おきに餌の食べ残しを取り除き、水や餌を補充し、土、砂の湿り気が保たれているか確認すれば、それ以上の事は殆ど何も必要としない。
観察していて水が減ってるなと感じれば水を足し、餌が食べられていたら食べ残しの殻等を取り除いて新しい餌を与える。実に楽である。
産卵しているのが確認できたら、雌と卵を別容器に移すか、他の個体を全て隔離するかした方が良い。
雌が土中に部屋を作って産卵しているなら前者、レイアウトのシェルターの下など地表で産卵しているなら後者が良いだろう。
理由は、抱卵中の雌に餌を与えるためである。
抱卵中の雌は巣穴から出てこないため、必然的にほぼ飲まず食わずである。そのため、無事に孵化まで漕ぎ着けても雌は疲弊しきり、たとえその後に餌を摂ったとしても回復が厳しくなりかねない。
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自然下では役目を終えた雌はそのようにして一生を終えるのだろうが、なにぶん飼育環境下では長生きして欲しいというのが飼育者の心。そこで、抱卵中の雌の傍に餌(抱卵中に狩りはできないのでワラジムシやレッドローチの死骸)をそっと置き、元気に保育に励んで頂こう。
他の個体を隔離するだけなら簡単だが、土中にいる雌を移すとなるとやや難しい。
この場合もまず他の個体は全て一旦別容器に移動願い、慎重に雌の巣穴を掘り出す。
カップアイス等に使う小さなスプーンがあると便利である。
事前に用意した雌を隔離する容器にまずは雌を入れる。雌は突然卵から引き離されて恐慌状態に陥っているため、迅速に卵もそちらへ移す必要がある。
卵は全て集めてからまとめて移すより、数個ずつ雌の目の前に置いてやるとよい。全部でなくても、とりあえず卵が無事と分かれば雌の混乱も多少は落ち着くためである。卵を全て移しきったら完了だが、この作業はとにかく迅速に行わないと雌に多大なストレスがかかり、最悪自らの卵を食べてしまう事もある。
なお、無精卵だった場合(卵が大きくならず、色も少し変)も卵食は行うが、それは無論気にしなくともよい。
幼虫も成虫と同様の管理で飼育可能。孵化から羽化までは最短で2〜3ヶ月ほど。
ハマベハサミムシは基本的に夏に繁殖し、秋までに羽化できれば成虫越冬、できなければ幼虫で越冬して翌春〜夏までに羽化を目指すというライフサイクルであると思われる(飼育下の繁殖から羽化までの観察、及び野外での幼虫の採集記録から)。

・終わりに
粗方解説すべきところは言い終えた気がするので、この辺りで筆を置く事とする。質問があれば、ツイートのリプ欄等に気軽にして欲しい。
さて、GWも後半だが、是非この魅力的で飼いやすい昆虫を見つけ、飼育してみては如何だろうか。この記事で、1人でも多くハマベハサミムシの魅力に気づく人が増えれば嬉しい。